勉強方法

【書評】学びの時短術!? 東大院生が実践した、速読・モチベーションアップ方法は?

勉強方法について、東大院生のくろまあくとさんの著書『超ショートカット勉強法』を読んでみましたので、レビューしたいと思います。

結論。『超ショートカット勉強法』について

『超ショートカット勉強法』について

  • 本書の価値は「勉強方法を浅く広くまとめて確認できる」ところ
  • 全く無益ではないが、あえておすすめはしない
  • 勉強方法を全く学習したことがない人であれば、有益ではあると思う。が…
  • 本書でおすすめの内容は「4章>1章>3章>2章=5章
  • モチベーション関連は参考になるが、特化した書籍を読んだ方が深い
  • 脳科学的な面についても、特化した書籍を読んだ方が深い
  • 独自の学習方法ではあるが、最新の研究・元の論文に目を通しているかは疑問
  • 無料で拾える意見中心だがわかりやすくまとめた点には一定の価値がある
  • 速読・速聴・1カ月で次々資格を取得など、期待しすぎない方がいい

それでは、詳細を解説していきたいと思います。

書籍の構成

書籍は5章構成で、以下のような内容となっています。

本書の構成

  1. モチベーション維持による目標設定術
  2. 速読&速聴による脳の活性化
  3. 記憶術
  4. 勉強におけるルール設定(環境構築・仕組み化)
  5. 本番力(本番でいかに実力を発揮するか?)

モチベーションに関する話は1・4・5章。記憶や学習に直結する脳に関する話は2・3章で扱われています。

この他、プロローグ・エピローグのようなものがありますが、あまり学習において有益とは言えないため割愛します。

感想①「モチベーション維持」については微益

第1章は「モチベーション維持とそのコツ」について解説されています。

モチベーション管理については、非常に学習や仕事において有効です…と、私が言うまでもなく、書店に行けば代わる代わる関連書籍を見かけるかと思います。電車内の広告でも毎年のように違う書籍の宣伝を見かけますね。

本書で解説されている内容は、ものすごくザックリ言うと「まじめに勉強してこなかった中学生くらいなら役立つかな…」といった内容が多いです。例えば

  • ご褒美を設定すれば効果がある
  • 背水の陣は効果がある

など「いわれなくても知ってるよ!」という人の方が多いのではないでしょうか。

また「細切れな目標設定を作ることで、達成できている感覚をつくる」「目標を見えるかする」「目標の達成をイメージする」なども、ちょっと勉強慣れしている人であれば、普通に仕組み化できているのではないかと思います。

これらについて、本書籍では「効果がある」ということを具体的な脳科学的な面には触れず解説しています。第1章で解説されていることを「中学生でもわかるレベルで、脳科学的な側面から理解したい!」という人は「脳を最適化すれば能力は2倍になる」を読むと、学習・モチベーションと脳内物質の環境がわかりやすく学べますのでおすすめです(この記事執筆時点で、kindle Unlimitedなら無料)。

感想② 「速読&速聴術」については微妙

本書を読むうえで、一番気になったのがこの章。本の表紙に「1日10冊読める&理解できる」と書いてあったので、かなり気になりました。

先に申し上げておきますと、私はどちらかといえば速読懐疑派です。

もちろん、集中力や読み取り方次第で、読む速度や理解度は変化すると思いますが「年間1万冊読んでいる」というプロフィールの人を見たりすると「どんな基準で評価してるんだよ!」と突っ込みたくなります。

また、最近の脳科学の情報を集めていると、どちらかといえば「何倍もの速度で本を読んで、同じレベルで理解するのは無理」という意見の方が優勢であり、その点でも速読については懐疑的な意見を持たざるを得ません。

さて、この章の内容をザックリ解説すると

第2章の内容

  • 前置き
    脳の回転速度を向上させれば、仕事や勉強の速度が上がる
    普通、脳は3~10%くらいしか使われていないといわれる
    右脳と左脳をバランスよく活用すれば良い
  • 脳のトレーニング方法
    速読の場合
    日常生活でもできる方法
    速聴の場合

というものです。

正直、脳の使われていない部分の話や、右脳と左脳の違いの話に古い知識であったため、書籍が出版された時期を疑いましたが、2019年の出版でした。

あくまで、自説を強化するための引用だとは思いますし、そのような説があることは否定できませんが、やや客観性に欠ける書き方ではないかと感じました

速読はどの程度のレベル?→1日10冊の基準がわからない

本書で解説されている脳のトレーニングをやるとどれだけ効果があるか?ですが「このトレーニングをやれば1日10冊読めます!」とまでは書いていません

まあ、それは当たり前かもしれませんが、いくら脳を活性化させたところで、活性化させていない人の10倍の速度で判断・記憶ができわけがありません。そのくらいに明確な差がでるのであれば、当然学校教育や職場にも取り入れられて、みんなやってますね。

そもそも「1日10冊」とは書いていますが「何時間でどの程度の本を10冊」とまでは書いていません。私は読書が遅い方ではありますが、この「超ショートカット勉強法」くらいに斜め読み可能な200ページ程度のビジネス書であれば、60~90分で1冊読む自信はあります。つまり、読書が遅い私でも、休日なら内容次第で「もともと1日10冊は可能」です

しかし、著者としては「小説のようにゆったり読むものでも、数百ページでも1日5冊」とのこと。私は250ページ程度の小説を読む場合、1冊読むのに3日程度はかかります。

つまり、著者は15倍速で読み、理解できていることとなります。が、やはり「1日何時間?」という基準がわかりません(私は通勤時間で読むことが多いので、1日2~3時間)。

もしも、著者が私の15倍速で学習ができるのであれば、確かに凄い学習能力であると思いますが、よく考えると

  1. 1カ月の仕事が180時間なら、勉強120時間は可能な範囲
  2. 15倍速なら、勉強量は年間で120時間×12カ月×15倍速=21600時間分
  3. 素人が司法試験合格するための勉強量が7000~10000時間とすると、働きながら司法試験クラスの試験に2~3個/年ペースで合格できる(経験ある分野ならもっと多い)

ということになってしまいます(著者の取得資格を見る限り、そのようなことはありません)。

いくら東大の大学院に行ってるからといって、やはり15倍速はありえないかと思います。

とはいえ、やはり著者は東大の大学院に入っているくらいですし、脳のトレーニング自体には、世間でも言われる通り一定の効果があるのではと私も思います

そんなわけで、速読の部分についてですが「脳の活性化については興味深く、効果はある程度期待できそうだが、1日10冊にとらわれれると危険!」というのが個人的な意見です。

狒々山
狒々山
ちなみに、東大院卒で本当に1日の勉強で試験に合格できる人に勉強を教わったことがありますが、その人は完全に脳の状態が通常の人と違っていました(教科書を句読点レベルまで暗記できてしまう)。こういう事例の真似はまず不可能ですので、一般人にはそれなりの努力が必要です。

速聴について→やったことありますが劇的な効果はない

速聴について。細かいトレーニング方法は割愛しますが、だいたいお察しの通り「速く聞くこと」で、トレーニングし、脳の活性化を行うという内容です

実はこれ、私が意図せず大学時代にずっとやってきたことです。

というのも、当時の私は「世間(同級生)についていくためにアニメを見なくては…」という意味不明な理論から、高速でアニメを中心に動画を見ていました。

速いときでその再生速度は2.7倍速(だいたいこの辺りが作業BGM代わりに垂れ流しながらでも意味がわかるギリギリ限界)。本書で解説されているトレーニング方法とはやや異なりますが、大学に通っていた4年間、かなり頭の回転速度が速くなっていたことになります

で、その結果ですが。卒業後、速聴をやめる前と後で、大差ありません

というか、実績でいえばむしろ卒業後の方が上回っています。この辺は、単に自分自身の努力の問題もありますが、つまるところ「速聴のトレーニングより、モチベーション管理を中心とした本人の努力の方が効果的では?」と私は感じています。

ただし、先の速読の時と同様「やはり脳のトレーニング自体には一定の効果があるのでは?」と期待感はあります。実際、速聴を行った直後は周囲の音が遅く聞こえることはある程度ありましたので、全く効果がないわけでもないかと思います。

感想③ 「記憶術」についてはやや常識

記憶術については、やや常識的な内容が多いです。

例えば、短期記憶と長期記憶。短期記憶は海馬に保存され、長期記憶は大脳に保存するなど。知らない人も多いけど、学習について学んだ経験があれば、知っている人も多い知識です(去年あたり、NHKでよくやってた気がする)。

また、記憶方法についても

  • 反復学習が大切
  • 周囲の物事・五感と関連付けて覚える

など、ごく一般的に言われている内容です。それこそ、本書に登場する、エビングハウスが実験を行っていた140年くらい前から、これらの内容は認識されています(それを自然科学的に実験した点が、エビングハウスの功績の一つ)。

こういう昔からの知識を再出版しているところを見ると、なんというか

  1. 世間に「努力しなくても成果を出せる勉強法!」のような本が出回る
  2. 「努力(反復学習)には意味がない?」といった風潮が出る
  3. 結果的に「反復学習が大切」みたいな本が再出版される

という不毛な流れあるような気がしてなりません。

1点、どうしても納得がいかなかったのが「エビングハウスの忘却曲線」について。

著者の理論を支持するための引用だからだと思いますが、実際の論文の内容と、ややずれた解説をしているように感じます。あるいは、ネット上でよく言われる解釈と一致しているため、元の論文を読んでいないのかもしれません。

エビングハウスの忘却曲線については、実際に論文を読んだ内容を以下にまとめてありますので、興味がある人はご確認いただければと思います(忘却曲線が出てくるのは論文の第7章です)。

「1日で66%忘れる」は本当か?「エビングハウスの忘却曲線」の論文『記憶について』を読んでみた「人間は1日たつと66%忘れる」という理論の根拠としてよく取り上げられる「エビングハウスの忘却曲線」。受験勉強などで聞いた人も多いかと思...

ちなみに、反復学習についてであれば、『東大首席が教える超速「7回読み」勉強法』の第4章部分が参考になるかと思います(この書籍の全体が反復学習を解説しているわけではないので、その点注意)。

感想④ 「勉強におけるルール設定」についてはやや有益

いわゆる「勉強から逃げない環境づくり」「勉強をサボらない環境づくり」について解説してあります。

中学生・高校生くらいなら「スマホを机の上に置かない」とかが、典型的なそれかなと思います(私は長年使っていなかったため、スマホが机の上にあっても全く気にならない)。

また「そもそも悩んだり、準備したりすることに精神力を使うこと」を排除するための仕組みづくりについても解説されています。これらモチベーション管理を全く学習したことがない人からすれば、かなり有益だとは思います。

しかしながら、どれもネット上で見られる意見でだいたい代用可能ですし、とくにモチベーション関係に特化した書籍であれば、より深く掘り下げているものが多いので、あえてこの書籍をおすすめする程の内容ではありません

ちなみに、私が例外なだけだと思っていますが「ツァイガルニク効果」を利用した勉強・仕事方法はどうにも効果が薄く、単にスケジューリングによる管理を行った方が効果が高いので、私は取り入れていません(忘れるときは、ツァイガルニク効果が発揮される印象です)。

感想⑤ 「本番力」についてはおまけ程度

最後に、ページ数的にも本当におまけ程度ですが、試験における本番での心構えについて触れられています

これらも常識の範囲内であるため、あまり意識して読む必要性はないと思います。

普通の筆記試験対策についての内容になっていますが、できれば難関試験や面接試験なども含めた内容を記載頂けると、もう少しためになったかなと思います。

感想⑥ 全体として

ここまでで、本書についての感想を章ごとにまとめました。

本書全体の感想としては「具体的なところがよくわからない…」という点が多かったのが残念です。

例えば速読についての具体的な「1日10冊」の条件もそうですが、勉強における条件もあまりはっきりしません

資格試験については「簡単な試験に複数合格する」場合の勉強方法と「難易度の高い試験に1つ合格する」場合の勉強方法は、普通違ってきます。理解の度合いについても「試験に合格さえすればいい」のか「試験に合格した後、その知識を仕事や上位の資格に活かす」のかによって、程度が大きく変わります。

本書では、あえて時間をかけて記憶を深く定着させる手法や、短時間で吸収を早める手法などが解説されていますが、どういった学習目標に対して、どの手法を使うべきかが体系立てて説明されていなかったため、その点はもう少しわかりやすくして欲しいところです。

また、2章の速読については「1日10冊読める&理解できる」と書いてありますが、一方で3章の学習方法で「理解度を下げてでも速度を上げて繰り返し読む」と解説しているところには若干ずれを感じます。「1日10冊読む速度で反復学習することで、理解を深める」という意味合いであれば納得いきますが(これは度々本で見かける手法)、この辺りの関係性についてもしっかり言及して欲しかったところです。

この書籍がおすすめの人は?

本書の内容は、主に2つに分類できると思います。

  • モチベーションの側面から、勉強の環境管理・目標管理や勉強開始のハードルを下げる方法
  • 脳の活性化やメカニズムを利用し、記憶力・学習速度の向上

人間の脳については、日々新しい研究結果が出ているため、将来的には間違っているといわれる意見や、そもそも現段階で反対意見がでている内容も多いです。

そういった分野を本書では取り扱っているため、書籍の内容を「絶対に正しい!」ということは困難ではありますが、おおむね学習方法を学ぶ上では有益になる情報ではないかと感じます

しかし一方で、モチベーション管理については、それに特化した書籍がありますし、脳科学的な意見についても、それに特化した書籍があります。本格的に勉強方法を学び、効率を上げたい人は、そちらを読んでいった方がいいでしょう。

そういった意味では、この書籍をおすすめできる人は、以下のような人だと私は考えています。

  • 勉強方法について、初めて学ぶ人(とくに中学生・高校生など)
  • 手っ取り早く、浅く広く勉強方法について学習してみたい人
  • 既に勉強方法について一定の知識があり、久しぶりに知識を確認したい人

本書で紹介されている個別の知識については目新しい物はなく、しいて言えば「自分がこういった勉強方法に関する知識を、中学時代から学んでいれば…」と悔やまれる程度です。わかりやすく解説が行われていますので、小学校高学年、中学生くらいのお子様への参考書籍としてなら、価値は高いかと思います