ネットワークスペシャリスト試験におけるおすすめの参考書と利用方法
2019年。158時間35分程度の学習時間を使って、複数の参考書を利用し、ネットワークスペシャリスト試験の学習を行いました。
この記事では、実際に参考書を利用した上での反省点もふまえ、2020年のネットワークスペシャリスト試験を想定した参考書の選び方と利用方法をまとめます。
初心者~中級者の序盤:「ネスペの基礎力」を疑問点が無くなるまで繰り返す
初心者~中級者(というか、上級者でもできれば)が序盤で学習するのであれば、圧倒的に「ネスペの基礎力」がおすすめです。
- その名の通り、ネスペ(ネットワークスペシャリスト試験)で必須の基礎知識が凝縮されている
- 単なる知識に終わらない理解が得られる
→試験では基礎知識の適用力が多く問われる(最新知識系より難しいことも多い) - 他の参考書より解説がわかりやすい
- この参考書だけでは全体的な知識がもの足りない
→中古で詳細な教科書を1冊購入するとよい
「ネスペの基礎力」を序盤の学習で利用するメリット
最大のメリットは「必須の基礎知識が凝縮されている」こと
「ネスペの基礎力」は、初心者~中級者で基礎は学習したことがあるけど、意外と抜けている知識・あやふやな知識について、試験で必要とされる水準まで再学習するには最適です(MACテーブルとARPテーブルの違い、ルータとL3SWの違い、IPv4プライベートアドレスの範囲など)。
ネットワークスペシャリスト試験の難関である午後試験は記述式。基礎知識といえども、あやふやなままでは当然解答が困難です。基礎知識はサービス問題から難関問題まで、幅広く適用能力を問われるため、まずは基礎知識を正確におさえることが、合格までの最短ルートとなります。
また「基礎知識が実際の試験でどのように問われるか?」を、実例を通して学べるのもメリット。単に知識を教科書から読み取るだけでは、その適用能力を身に着けることは難しいですが、試験問題を通して適用力を身に着けられるので、単なる知識学習にとどまらない学習ができます。
そして「ネスペの基礎力(というか、ネスペシリーズ)」の重要な特徴が「他の教科書よりわかりやすい」というところ。私はこの本を購入する前は「しょせん会話形式で入りやすくしているだけだろ…」と勘違いしていましたが、
- 具体的に「どの程度のレベルまでが試験に出やすいか?」が記載されている
- 背景技術・事情なども含めて初心者が理解できるように解説されている
- 写真や図解が豊富
- 初心者が疑問を持つであろう内容について、必要に応じ脱線して解説してくれる
といった形で他の参考書よりもわかりやすく解説が行われています。
とくに「初心者が疑問を持ちやすい内容を、必要に応じて脱線して解説してくれる」というところが大きなメリット。
ほとんどの参考書が「目の前の問題を解くために必要な知識」には触れますが、その知識の全体像についてはあまり解説しません。ネットワークスペシャリストの午後試験は、文章問題ということもあり「問われていないけど、問われたらわからない」という内容が多く、こういった問題は後の試験で問われる可能性があります(ネットワークスペシャリスト試験のTACの講座でも聞きました)。
こういった「関連の知識で初心者が疑問を持ちやすいところ」について「ネスペの基礎力」は解説をしてくれることが多く、初心者でも疑問点を残さず学習を進めやすいというメリットがあります。
「ネスペの基礎力」のデメリット
「ネスペの基礎力」のデメリットを上げるのであれば「あくまで必須の基礎知識が中心」というところ。たまに深い内容も解説が行われることがありますが、やや突っ込んだ知識が要求される問題に解答するには、不十分なことがあります。
例えば、2019年のネットワークスペシャリスト試験の午後IIで登場した「ネットワークのセキュリティ対策」のDNS関連の問題については、この参考書だけで対策するにはやや不十分と感じます。
こういった事情をカバーするため「午後I・IIの演習をする際に利用できる、網羅的な解説が行われている教科書を1冊購入する」という手段をおすすめします。この1冊については、多少型落ちした中古でも十分です(繰り返し学習の際に利用しにくいので、ネット検索のみはおすすめしません)。
「ネスペの基礎力」は古くないか?
ネスペの基礎力が最初に出版されたのは2017年6月です。仮に2020年の受験で利用するのであれば、3年以上が経過していることとなります。
私は受験の際「ネスペの基礎力」を序盤の学習で利用しませんでした(このことはかなり後悔してます)。その理由がこの「古さ」。
しかし、先に解説した通り「ネットワークスペシャリスト試験では、基礎知識の適用能力がメインとなる」ためこの程度の古さはほぼ影響を受けません。
2018年の過去問ではIoT、2017~18年のSDNなど、最新技術も出題されますが(主に午後II)、実際に問われる難問、主には古くから使われている技術の適用能力です。例えば、2018年のSDNに関する直接的な問題などは、先入観なしで解かせれば論理のみでネットワーク初心者でも解ける内容です(もちろん、用語問題なども登場しますが、それらはちょっと勉強すればおさえられます)。
こういった事情から「ネスペの基礎力は古くない。2020年でも私なら利用する」というのが結論です。
代用品:「ネスペ教科書」なら最新版になっている
ちなみに、同じ著者の「ネスペ教科書」の第2版が2019年12月23日に発売されました。
まだ私は読んでいませんが、こちらも「基礎」に焦点をあてているテキストであり、「試験に出る(または出た)ところだけ」を解説するスタイルです。
第1版がかなり早い段階で在庫切れになり、第2版も楽天やYahooショッピングで見つからないことを考えると、第2版もすぐに在庫が切れる可能性があります。
「ネスペの基礎力」でも十分対応できると思いますので、あえて購入する必要性はありませんが、気になる方は早めに購入しておくといいでしょう。
初心者~上級者の序盤:午前II試験の過去問を7割後半程度で安定するまで解く
上記の「ネスペの基礎力」と並行して実施するべき勉強として、午前II試験の過去問演習があげられます。ただし、完璧までは求めず、序盤は7割後半程度の点数で安定するところまで上がれば十分です(午後対策をしっかりやれば、自然と知識がつくため)。
利用するのは「ネットワークスペシャリスト過去問道場」がおすすめです。メリットは以下の通り。
- 無料で利用できる
- 平成21年の過去問までさかのぼれる(流石にそれ以上昔は古いので、学習効果は薄くなってくるから不要)
- スマホで外出中のスキマ時間でも学習できる
- 解説も市販のものと比べて大差ない(ものによっては図がある分優れている)
午前II試験はこの過去問道場だけで十分だと思います。
ちなみに、午前II試験は4択であり、過去問の流用もあるので比較的簡単ですが(午後で不合格でも8割以上とれる人は多い)、問われる知識は意外と難しいものが多く、午後試験でまだ出題されていないような新しい技術が登場することもあります(捨ててもいいです)。
こういった午前IIで初登場の最新知識は、次回以降の試験で午後試験に登場する可能性もありますが、あくまで基礎知識を優先して学習することがおすすめです(理由は「ネスペの基礎力」で解説した通りです)。
午前Iが免除できていない場合
ネットワークを優先しつつ過去問演習
午前Iが免除できていない場合は、応用情報技術者試験の過去問に早い段階で取り組み、一度実力診断することをおすすめします。
学習の範囲は直近2回を除く8回分(少なくともしても4回分)。学習の流れとしては以下の通りです。
- 早い段階で正解率6割前後になるまで繰り返す
- 点数が安定したら、ときどき振り返りを行い、6割前後で安定してるか確認する
- 直前の時期になったら、過去問で8割以上(少なくとも7割後半以上)での安定を目指す
過去に応用情報技術者試験に合格した経験があれば、5年程度のブランクがあっても直ぐに6割程度は取れるようになると思います(私は4年以上のブランクで、初回から6割超えてました)。
あとは定期的に振り返りを行い、直前の時期で8割での安定を目指します。あくまで本番は午後I・IIのネットワークの問題ですので、あまりやりこみすぎないようにすることが大切です。
裏技:5,700円払って午前Iを免除しておく
裏技的な方法ですが、5,700円払って午前Iを免除しておく方法もあります。
方法について抜粋すると以下の通りです。
①応用情報技術者試験(AP)に合格
②情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験のいずれかに合格
③情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績をとる引用:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_00topic/koudo_menjo.html
5,700円というのは安くないですが、ネットワークスペシャリスト試験の受験は年1回。合格と不合格の差で転職や昇進のタイミングが変化すれば、キャリアに大きな影響を与える可能性もあります。そう考えると、直近の勉強時間をおさえるために「午前試験免除のためだけに、不合格前提で高度試験の午前Iだけ事前に挑戦しておく」というのは戦略としてありです。
また、まだ応用情報技術者試験に合格していないのであれば「幅広いIT知識+ネットワーク関連学習」も含めて、応用情報技術者試験に挑戦するのも効果的です。状況に応じて、午前I免除も戦略に組み込むといいでしょう。
中盤以降:午後試験の参考書に集中する
上記方法で基礎知識が身についたら、午後I・午後IIの学習に入ります。主に2パターンで参考書を選択するといいでしょう
パターン①:午後試験に自信がない → 「ネスペ」シリーズの大量購入
費用は高くなりますが、「ネスペ」シリーズの過去問を大量に購入するのが、初心者や知識の範囲が狭い人にとって最も学習しやすい方法です。
- 他の参考書よりも理解しやすい
→学習効率が上がる - 関連知識の補足がある
→初心者が知識の幅を広げやすい - 予想配点や採点基準の例が掲載されている
→実力測定がより正確にできる - 試験の理解を深めるために、実際に機器を設定する例やキャプチャ画面も載ってる
- 分野ごとの過去問になっていない(1冊1年分のみ)
→網羅的学習には、大量の購入か、iTECやTACの参考書が必要 - 既に知識が十分あるなら、もっと簡素な解説で十分
→上級者は学習の効率化につながらない - 費用が多くかかる
→iTECやTACの参考書なら、1冊で全体的な範囲の学習が可能
「ネスペ」シリーズの最大の特徴でもある「理解のしやすさ」がやはり最大のメリットです。
1冊あたり1年分の午後試験しか解説されていないため、「ネスペ」シリーズだけでネットワークスペシャリスト試験の対策をするのであれば、何冊も購入する必要があります。しかし、初心者や知識の幅が狭い人の場合(ほぼスイッチやルータ関連の業務経験のみ等)、大量に購入しても、学習効率を考慮したコスパで見れば、むしろ安いくらいです(中古で安く揃えれば、7年分で1万円もかかりません)。
また、これも「ネスペ」シリーズの特徴ですが、試験で問われやすい関連知識については脱線しての解説もあるため「初心者でもわかりやすい」と同時に「単に過去問を解く以上の知識が身につく」というメリットがあります。
脱線は、もちろんネットワークスペシャリスト試験に対して最適化された内容ではありますが、試験問題に合わせた内容で実際の機器の設定例や、パケットキャプチャ画面の掲載もあるため、試験後のネットワーク学習でも利用価値があります(ネスペ30知では、MQTTについて解説されてました)。
デメリットとして考慮するべき点は、分野ごとの過去問にはなっていないこと。例えば、直近1年や2年分を購入しただけでは、どうしても学習できない範囲がでてきます。そのため、大量に購入しない限りは、結局iTECやTACの参考書を購入する必要がでてきます。
また、上級者(試験で問われる知識をほとんど網羅できている人)にとっては、いくら解説が詳しくても、その効果が薄いです。出題形式や解答の流れに慣れる目的であれば、iTECやTACの参考書、あるいは無料で公開されている過去問をそのまま利用するといいでしょう。
パターン②:上級者(ネスペで問われる知識はほぼ網羅できてる)
パターン②の上級者の場合は、iTECかTACの午後試験の参考書を購入することをおすすめします。
2019年に、私が両方使ったときの経験から、特徴を書くと以下の通りです(最新版では変化している可能性がありますが…)。
- iTEC
各分野の過去問の前に、教科書的な文章が掲載されている
かなり詰め込み気味に書かれているため、見た目はやや読みにくい
解説は詳細だが「初心者でもわかりやすい」という方向性ではない - TAC
最初に午前II問題が掲載されている(オリジナル問題あり)
段落の分け方やページの切り替わりはiTECより見やすい
午後試験については難易度の表記あり
どちらが良いかは甲乙つけがたく、個人の好みや、その他の教材との組み合わせの影響を受けるかと思います。iTECは教科書的な使い方ができる点が一番のメリット。TACは見やすさと難易度表記がメリットといった印象です。
また、どちらも共通ですが、午後試験の問題解説で図がありません。解説もシンプルに正解を導くための知識や判断に集中していることが多いです。こういった事情から、自信がある人以外は、私としては「ネスペ」シリーズの方の購入、または併用をおすすめします。
終盤:テクニックか。過去問の振り返りか。足りない方を鍛える
終盤も午前は最低限の見直しに限定し、午後試験の対策を継続します。
ここで、午後試験の対策は大きく2パターンが想定されます。
- 過去問を細かく見直す(関連知識の習得も含めて知識の幅を広げる)
- テクニック重視の学習(「○○といったら××」といったパターンに慣れる)
このうち1番の「過去問を細かく見直す」が個人的にはおすすめです。とくに、知識がまだしっかり定着しているか自信がない人は、こちらを選択すると良いでしょう。追いつめられるとテクニックに頼ってショートカットしたくなるところですが、得意ジャンルが出題されるなどの運がない限り、基礎が疎かなままテクニックだけ身に着けても合格は難しいです(逆に考えると、短期でもテクニック+運で合格できる可能性はありますが…)。
一方、既に基礎はしっかり定着し、難易度の高い知識も幅広く学習できているという人であれば、むしろテクニックを重視するべきです。
知識の水準が高いのであれば、重要なのは「試験に対して慣れている」ことです。つまり「○○といったら××」といった形で、問われやすい論点を把握し、効率的に問題に回答していく力が、より合格率を高めます。
そこで、テクニック学習におすすめしたいのが以下の参考書です。
「ポケットスタディ」は主に以下の3つの内容にわかれます(実際の本に記載されている章とは別です)
- 教科書的にテクニックを解説する章
- 過去の出題傾向からテクニックを解説する章(速効サプリ)
- 実際の午後試験を解きながらテクニックを身につける章
また、2番目の「過去の出題傾向からテクニックを解説する章(速効サプリ)」についてのみ抜粋した最新版が「速効サプリ ネットワークスペシャリスト」です。
ただし、先に注意しましたがあくまで「基礎知識がしっかり定着し、午後試験の問題で合格点が出る可能性の方が高い」くらいの水準に達している人向けの参考書です。もしも基礎知識が定着していないのであれば、まずは基礎知識のトレーニングをおすすめします。