IT知識の一般常識 ITパスポート試験とは
この記事では、主に以下の内容を中心に解説します。
- ITパスポート試験の概要
- ITパスポート試験に合格するメリット
- ITパスポート試験の難易度・勉強時間

- 試験日:CBT方式で随時
- 申込日:随時
- 合格発表:受験日の翌月中旬(試験結果は当日)
- 試験時間:120分
- 受験料: 5,700円(税込)
- 合格基準:600点/1000点(ただし、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系で全てで30%以上の得点が必要)
- 受験資格:なし
- 想定勉強時間:50~100時間(未経験から学習する場合)
- 公式サイトはこちら
ITパスポート試験とは、どんな試験か?
ITパスポート試験とは、国家資格である「情報処理技術者試験」の中でも最も簡単なレベル1に区分される資格です。公式での略称は「iパス(アイパス)」。公式キャラクターは「上峰亜衣」です。

IPAの「対象者像」に関する見解
公式(IPA)の対象者像は以下のとおりです。
職業人が共通に備えておくべき情報技術に関する基礎的な知識をもち、情報技術に携わる業務に就くか、担当業務に対して情報技術を活用していこうとする者
引用:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/ip.html
「IT業界で働く人向け」というよりも「IT業界にかかわらず、情報技術に携わる業務につく人」に向けた試験となっています。

IPAの「業務と役割」に関する見解
公式の「業務と役割」に関する見解は以下のとおりです。
職業人として備えておくべき、情報技術に関する共通的な基礎知識を習得した者であり、担当する業務に対して情報技術を活用し、次の活動を行う。
(1) 利用する情報機器及びシステムを把握し、活用する。
(2) 担当業務を理解し、その業務における問題の把握及び必要な解決を図る。
(3) 安全に情報の収集や活用を行う。
(4) 上位者の指導の下、業務の分析やシステム化の支援を行う。
(5) 担当業務において、新しい技術(AI、ビッグデータ、IoT など)や新しい手法(アジャイルなど)の活用を推進する。引用:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/ip.html
ようするに「パソコンを使ってる仕事している人」であれば、あてはまる内容だと思います。(5)については、実際に活用するのであれば専門的と言えますが、活用を推進するというレベルであれば、ITパスポート試験レベルに含まれるようです。

IPAの「期待する技術水準」に関する見解
公式で期待する技術水準は以下のとおりです。
職業人として、情報機器及びシステムの把握や、担当業務の遂行及びシステム化を推進するために、次の基礎的な知識が要求される。
(1) 利用する情報機器及びシステムを把握するために、コンピュータシステム、データベース、ネットワーク、情報セキュリティに関する知識をもち、オフィスツールを活用できる。
(2) 担当業務を理解するために、企業活動や関連業務の知識をもつ。また、担当業務の問題把握及び必要な解決を図るために、システム的な考え方や論理的な思考力をもち、かつ、問題分析及び問題解決手法に関する知識をもつ。
(3) 安全に情報を収集し、効果的に活用するために、関連法規や情報セキュリティに関する各種規定に従って活動できる。
(4) 業務の分析やシステム化の支援を行うために、情報システムの開発及び運用に関する知識をもつ。
(5) 新しい技術(AI、ビッグデータ、IoT など)や新しい手法(アジャイルなど)の概要に関する知識をもつ。引用:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/ip.html
個別の項目をみるとレベルが高そうですが、冒頭の文章から「把握や推進のための基礎的な知識」のレベルにとどまります。
ITパスポート試験の沿革
初級シスアド試験の一部を継承する形で、2009年春季からITパスポート試験は開始されました。
初級シスアドの後継の試験と思われることもありますが、内容は「IT業界の人」というよりも「広く社会人全般」向けに作られているため、性質がやや異なります。
ITパスポート試験の出題内容
出題形式
出題形式は、以下のとおりです。
- 試験時間:120分
- 出題形式:四肢択一
- 出題数:
総出題数:100問(小問形式)
ストラテジ系:35問程度
マネジメント系:20問程度
テクノロジ系:45問程度
※採点対象は92問。残り8問は今後出題する問題を評価するために使用 - 合格点:600点/1000点(ただし、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系で全てで30%以上の得点が必要)
採点対象外の問題については、いずれ消滅する可能性もありますが、すでに試験開始から10年経過しても残っていることを考えると、今後も受験者の動向を把握するために残していく可能性が高いかと思います。
また、合格基準については、ストラテジ、マネジメント、テクノロジの各分野で30%以上は点数を取る必要があるため、苦手分野も最低限の点は取れるようにしておきましょう。
出題分野
出題範囲は、以下のとおりです。
分野 | 大分類 | 中分類 | ||
![]() | 1 | 企業と法務 | 1 | 企業活動 |
2 | 法務 | |||
2 | 経営戦略 | 3 | 経営戦略マネジメント | |
4 | 技術戦略マネジメント | |||
5 | ビジネスインダストリ | |||
3 | システム戦略 | 6 | システム戦略 | |
7 | システム企画 | |||
![]() | 4 | 開発技術 | 8 | システム開発技術 |
9 | ソフトウェア開発管理技術 | |||
5 | プロジェクトマネジメント | 10 | プロジェクトマネジメント | |
6 | サービスマネジメント | 11 | サービスマネジメント | |
12 | システム監査 | |||
![]() | 7 | 基礎理論 | 13 | 基礎理論 |
14 | アルゴリズムとプログラミング | |||
8 | コンピュータシステム | 15 | コンピュータ構成要素 | |
16 | システム構成要素 | |||
17 | ソフトウェア | |||
18 | ハードウェア | |||
9 | 技術要素 | 19 | ヒューマンインタフェース | |
20 | マルチメディア | |||
21 | データベース | |||
22 | ネットワーク | |||
23 | セキュリティ |
IT関連の専門的知識だけでなく、経営や法律、マネジメントなども含むかなり幅広い出題範囲であることがわかります。
すでにIT関連の学習をしたことがある人の場合、ITパスポート試験を受ける人は少ないかと思いますが、マネジメントやストラテジ系の用語は、実務経験があっても知らない問題がでてくるかと思います。
実務経験・学習経験のある人であれば、容易に合格できる試験ではありますが「勉強無しで満点が簡単に取れる」というほどに、出題範囲は狭くない試験といえます。
一方、初心者が学習する場合は、幅広い知識を身につけることができるため、自分の専門分野を検討する材料としても利用できるでしょう。
ITパスポート試験の試験日程
CBT方式により、随時行っています。
ただし、身体に障害があるなどの理由で、CBT方式の受験ができない場合、春季(4月)と秋季(10月)の年2回、筆記による試験の受験が可能です(詳細はこちら)。
ITパスポート試験の申し込み方法
試験の申し込みの流れは以下のとおりです。
- 利用者IDの登録
- 本パスワードと利用者情報の登録
- 試験会場と日程の選択
- 受験手数料の支払い
- 確認表のダウンロード(いわゆる受験票です。送付はされないので、自分で印刷かメモを行う必要があります。
詳細については公式の「試験の流れ」で解説されていますので、ご確認いただければと思います。
ITパスポート試験の試験会場
CBT方式での受験ですので、最寄りのテストセンターで受験することとなります。
詳細な試験会場に関する情報は公式の「試験開催状況一覧」で確認できます。
ITパスポート試験に合格するのメリット
入試・単位認定で優遇される
ITパスポート試験では、入試や単位認定で優遇される制度があります。
公表されているだけで、入試の優遇は192校、単位認定は91校(2019年6月2日時点)。難易度もあまり高くありませんので、高校生のうちに取得しておけば、大学入学や大学生活でも役立てることができます。
就職・転職で有利
IT業界ではあまり評価が高くはない資格ではありますが、ITパスポート試験に合格しておくことで、新卒であれば幅広い企業での就職・転職活動を有利にできます。

報奨金などの金銭的メリット
ITパスポート試験は知名度が高いため、報奨金の対象となることがあります。
金額は高くはありませんが、受験費用+教材程度の報奨金は得られることもありますので、入社後であれば出費ゼロで取得できる可能性もあります。

その他の優遇される制度
適用される人は多くないと思いますが、「ジュニアマイスター顕彰制度」では、12ポイントが付与されます。
また「ITコーディネータ試験」では、ITパスポート試験で750点以上取得している場合、ITC試験の一部が免除される制度があります。
ITパスポート試験の難易度・勉強時間
上位資格(基本情報技術者試験)と比べた難易度
ITパスポート試験と、上位資格である基本情報技術者試験では、難易度に明確な差があります。
基本情報技術者試験の午前試験(小問形式)については、ITパスポート試験とほとんど同じレベルです。しかし、基本情報技術者試験で苦戦するのは午後試験です。つまり、ITパスポート試験の勉強で、基本情報技術者試験の午前試験を突破しただけでは、基本情報技術者試験に合格することは困難といえます。
基本情報技術者試験は「IT業界で働く人の基礎知識」であり、ITパスポート試験は「社会人としてのIT基礎知識」と考えると、難易度の差もわかりやすいかもしれません。

ITSSキャリアフレームワークにおける難易度
「ITSSキャリアフレームワークと認定試験・資格の関係」において、ITパスポート試験は最も簡単であるレベル1と定義されていました(上位資格の基本情報技術者試験はレベル2)。
ただし、2018年8月6日のITパスポート試験の改訂発表により、ITSSで定義するには難しいということで、ITパスポート試験は「ITSSキャリアフレームワークと認定試験・資格の関係」から削除されました。

ITパスポート試験の勉強時間
ITパスポート試験は難易度の低めの試験であるため、初心者でも勉強時間は大きく異なりません。
短い人だと10時間程度。長い人だと150時間程のこともありますが、完全な未経験からだとおおむね50~100時間程度の人が多いようです。
ITパスポート試験の受験者数と合格者数の推移
平成31年4月度のデータを見ると、合格率は54.6%です。
過去のデータよりも合格率が向上していますが、これは「会社での研修」が影響しているのではないかと思われます。
平成31年4月度のデータから、受験者は社会人66.4%、学生が33.6%であり、社会人と学生をわけて合格率をみると、社会人は63.9%、学生は36.7%となります。新人研修の一環に取り入れる会社が増えてきたことで、このような偏りが発生しているのではないかと思います。
そうなると、昔(平成25~29年ごろはおおむね合格率50%弱)よりも難易度が低くなってきているとまではいい切れないのではないかと思います。

学習方法
多くの人の場合「テキスト」→「過去問」の順番で学習を行います。
ITパスポート試験では過去問の流用が行われません(過去には行われたことがあります)ので、短期的に過去問を丸暗記するだけでは合格が難しく、体系的な知識をテキストで学習する必要性があるかと思います。
一方、基本情報技術者試験の午前問題で6割程度が取れる実力があれば、十分合格を目指せる難易度ではありますので、必ずしも「テキスト」による学習が必須なわけではありません。「テキストは参考資料」程度に利用し、学習の中心は「過去問」にした方が、合格までの効率はいいでしょう。

ITパスポート試験がおすすめの人
ITパスポート試験は「社会人として備えるべき、IT関連の一般常識」を学習できる試験です。
そういった意味では、現代のITスキルが必須の時代で仕事をする人であれば、ほぼ全員におすすめできる資格ではあります。が、同時に「あえて一般常識問題を勉強するために、受験までする必要はないのでは?」ともいえます。
そこで私としては「全くIT未経験だけど、体系的なIT知識の基礎を身につけたい方」に受験することをおすすめします。
ITパスポート試験の学習は、IT関連の知識をテクノロジー以外の分野についても、体系的に学習することができます。「仕事でIT知識を役立てたい」という人であれば、できるだけ若いうちに取得しておきましょう。
一方、「事務仕事でITを活かしたい」とだけ思うのであれば、ITパスポート試験よりもMOS(マイクロオフィススペシャリスト)などの方がすぐに役立ちますし「すでにIT関連は学習経験がある」という人であれば、より難しい試験を受験してみるといいでしょう。