技術士第一次試験(情報工学部門)- 特徴・注意点・難易度・勉強時間まとめ
この記事では、技術士第一次試験を情報工学部門で受験した体験を元に、以下の内容についてまとめています。
- 技術士第一次試験の概要
- 技術士第一次試験の特徴と注意点
- 想定される勉強時間と私の勉強時間
- 技術士第一次試験の難易度
技術士第一次試験を受験予定の方(とくに、専門科目が情報工学部門の方)の参考にしていただければ幸いです。
技術士第一次試験の概要
まずは簡単に技術士第一次試験について解説します。
基礎的な情報を既に知っている方は飛ばしてください。
また、最新の情報は公式ホームページを確認するようにお願いします(災害などにより詳細が変更になることもあります)。
技術士とは?
技術士とは何か。公式から引用します。
「技術士」は、産業経済、社会生活の科学技術に関するほぼ全ての分野(21の技術部門)をカバーし、先進的な活動から身近な生活にまで関わっています。
また、「技術士」は、国によって科学技術に関する高度な知識と応用能力が認められた技術者で、科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある国家資格です。
さらに、「技術士」は、「技術士法」により高い技術者倫理を備え、継続的な資質向上に努めることが責務となっています。
要するに「技術士は、科学技術に関する技術者にとしての権威がある国家資格」になります。
技術士法によって、試験や義務、罰則なども定められており。技術士試験に合格しただけでは、技術士になることはできません。
その他に、技術士としては、継続的な研鑽を行っていることの証明(技術士CPD)も必要となります。
技術士第一次試験のスケジュール・試験時間・受験手数料・持ち物
技術士第一次試験のスケジュール、試験時間、受験料は以下の通りです(令和2年年度の一次試験)。
- 受験申込書:6月中旬頃から配布開始
- 受験申込書の受付:6月下旬~7月初旬頃
- 試験日:10月の第二日曜日(公式では10月中旬頃となっています)
- 合格発表:12月中旬頃
- 試験時間:午前9時から午後4時までの間で、あらかじめ受験者に通知する
- 受験手数料:11,000円
台風が来やすい時期でもあるため、試験直前の時期には公式ホームページで試験日を確認しましょう。
また、試験時間は例年は以下のようになっています(ただし、新型コロナウイルスの影響で、令和2年度は試験時間がずれました)。
試験科目 | 試験時間 |
---|---|
専門科目 | 10:30~12:30 |
適性科目 | 13:30~14:30 |
基礎科目 | 15:00~16:00 |
持ち物は以下の通りです(令和2年年度の一次試験)。
- 受験票
- HB又はBの黒鉛筆(シャープペンシル可)
- 消しゴム(電動は不可)
- 鉛筆削り(電動は不可)
- 時計(通信機能、計算機能がないもの)
- 電卓〔四則演算(+-×÷)、平方根(√)、百分率(%)及び数値メモリのみを有するものに限ります。(関数電卓等は使用不可)〕
- ペットボトル、ボトル缶(ふた付き)
- 写真付き身分証明書(必要に応じて使う。私は提示を求められませんでした)
あえて飲む必要はないかと思いますが、「水分補給のためペットボトル及びボトル缶(ふた付き)に入った飲料は飲むことができます」と公式の案内に記載されています(その他の飲食は禁止)。
技術士になるには?
技術士になるには、いくつか方法があります。
大雑把に言えば以下の流れになります(2020年11月27日時点)。
- 技術士第一次試験か、指定された教育課程を修了し「修習技術者」となる
- 修習技術者となったものが、一定条件の実務経験を行う(最短2年、最長10年)
- 条件②を達成し、技術士二次試験に合格する
- 技術士二次試験に合格後、技術士の登録を受ける
①の条件については、「技術士第一次試験」の突破でクリアする人が多いかと思います。
複雑なのは②の条件。「一定条件」の部分の詳細は、以下の3つの経路になります。
- 技術士補に登録し、技術士の指導の下で4年以上の実務を経験する
- 修習技術者となったあと、職務上の監督者の下での4年を超える実務を経験する
- 修習技術者となり、7年を超える実務を経験する(修習技術者となる前を含む)
※経路①の期間と経路②の期間を合算して、通算4年を超える実務経験でも第二次試験を受験できます。
※経路②の「職務上の監督者」は「科学技術に関する業務に7年を超える期間従事している者」に限られます
※大学院(理科系等のものに限る)修士課程、専門職学位課程の修了者及び博士課程に在学した期間は2年を限度として当該期間から減じた期間となります
※第二次試験総合技術監理部門を受験する場合、経路①及び経路②における実務経験は7年、経路③においては、10年の実務経験が必要です。
上記のように、経路が3つあり、細かな条件もあるため、状況に応じて必要な実務経験は異なります。
経路①と②の実務経験は、修習技術者や技術士補になった後からの計算となるため、技術士を目指している学生は、就職前に一次試験に合格しておくといいでしょう。
技術士第一次試験の特徴と注意点
ここからは、技術士第一次試験に関する特徴と注意点についてまとめます。
専門科目の免除制度がある
技術士第一次試験の専門科目には免除制度があります。
中小企業診断士に登録している人や、高度情報処理技術者試験に合格している人が対象となりますが、詳細は公式から最新の情報を確認してください。
自分はこの確認で失敗しました。
「情報処理技術者試験の高度試験(平成21年度から実施)」と書かれた対象には、私は合格していたのですが、よくよく詳細を読んでみると
※高度試験(ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験)
と高度試験が定義されており、平成21年以降であっても情報セキュリティスペシャリスト試験は含まれていません!(私は対象外!)
情報処理安全確保支援士試験は別途対象となっているのですが、その影響か、情報セキュリティスペシャリスト試験は平成21年以降にも実施されていたにもかかわらず、対象から外れてしまったようです(実際の理由は不明です…)。
過去問の流用・類似する問題の程度は?
正確な流用の割合は不明です。
過去4年分からほぼ暗記問題のみ抜粋して学習した自分の場合、流用・類似問題と判断できた割合は、以下のようになりました。
- 専門科目:流用と類似は6問(解答数の24%)
- 適正科目:流用と類似は1問(全体の6%)
- 基礎科目:流用と類似は2問(解答数の13%)
※あくまで私が過去4年分(まる暗記で対応できる問題のみ)から流用・類似と判断できた問題数です
もちろん、過去問の範囲を広げたり、問題を飛ばさず学習すれば、類似・流用として解答できる問題はもっと多くなります。
私の体験としては、専門科目が流用・類似が最も多いという結果でした。
基礎科目については、テーマが過去問と被る出題は多かったのですが、学習した内容でそのまま歯が立つレベルの流用・類似は少な目の印象です。
一番勉強が役に立たなかったのは、適正科目です。
他の方の受験体験記でも、適正科目は過去問9年分を完璧に仕上げても正解数は15問中11問との結果となっていました。(技術士法第四条や製造物責任法に関する問題はよく出ます。過去問の穴埋め部分の暗記などで対策しましょう)。
試験時間はどの程度余裕があるか?
試験時間は以下の通りです。
- 専門科目:120分(10:30~12:30)
- 適正科目:60分(13:30~14:30)
- 基礎科目:60分(15:00~16:00)
ちなみに、令和2年度は新型コロナ対策のため、試験を実施する時間帯が変更になっていました(90分遅れで開始し、専門と適正の間の休憩は30分短い)。
そして、私が実際に試験を受けた際、見直し後に余った時間は以下の通りでした。
- 専門科目:53分(約44.2%)
- 適正科目:30分(50%)
- 基礎科目:18分(30%)
ようするに、事前にある程度勉強しておけば、十分時間は余ります。
試験の解答順序・注意点
先述した通り、試験時間は十分に余ります。とはいえ、焦らずじっくり解くのであれば、試験時間は無駄にしないことが合理的です。
ここでは、試験時間を最大限有効に使うための回答の順序について解説します。
解答の順序を考察する(適正科目)
「適正科目はどのように試験問題を解いていってもかまわない」です。
全問題に解答が必要であり、また計算問題もないため、適正科目については解答順序の戦略を考える必要はありません。
解答の順序を考察する(基礎科目と専門科目)
技術士の一次試験の基礎科目と専門科目は、解かなくてもいい問題があるという性質上、解答順序によって時間の余裕が変わってきます。
迷った場合は、概ね以下の順序で解答するといいでしょう(自分もそうしました)。
- 自信があり、即答できる問題から解く(流用・類似・得意な問題)
- 解けそうな問題で、計算問題以外を解く
- 計算問題を解く(自信の有無に限らず)
- 念のため、残った問題も解いてみる
最初に、①で即答できそうな問題を解答しながら、解答した問題数を数えます。
次に、②では解けそうな問題の内、計算問題以外を解きます。じっくり計算に取り組むためにも、すぐに終わりそうな問題を優先的に片づけます。もちろん、ここでも解答した問題数を数えます。
③では、残した計算問題を解いていきます。計算問題には、解き方を知らなくても、やってみれば案外解ける問題もあります。ですので、計算結果に自信があれば、自信のある問題としてカウントします。
最後に、残った問題に目を通します。稀にですが、選択肢4つは意味不明でも、残り1つの選択肢だけで解けてしまう問題もあるからです。とはいえ、ざっと目を通した時点でそこまで判断できるのがベスト。あくまで「点が稼げればラッキー」程度の認識でいいでしょう。
解答数の注意点
専門科目と基礎科目では、多すぎる問題数を解答してしまうと、それだけで失格となります。
ですので「自分がいくつ解答しているか?」「自身が無い問題はどれか?」をわかりやすく把握しておく必要があります。
私の場合は、以下のように対応しました。
- 自信のあった問題は、問題番号を〇で囲みつつ、数を数える
- 自信はないが正解率の高い問題は、問題番号の左に〇を付けて、数を数える
- ①②の手順で問題数が足りない場合、比較的正解できそうな問題で残りの数を埋め、問題番号の左側に△を付ける
※もちろん、印をつけるのは問題用紙の方です
最終的に自信のある問題で必要な解答数を全部埋められるのが理想ですが、現実的にはその他も必要になるかと思います。
途中で選択する問題を入れ替えたくなることも多いので、自信の無い問題をすぐに見分けられるよう、問題に対する自信の程度を、三段階以上で区分しておくことをおすすめします。。
技術士第一次試験(情報工学部門)の難易度・合格率
全体の合格率
念のため、技術士第一次試験の合格率。
過去10年(平成22年度~令和元年度)では、悪い時で21.4%(平成23年度)、良い時で63.3%(平成24年度)と、かなり幅が広いですが、37.0~37.8%の範囲が3回、48.6~50.6%が4回と、ある程度は傾向がある感じです。
ですので、合格率は概ね40%くらいと考えておけばいいかなと思います。
合格率40%なので「超簡単とは言えないけど、難しくはない」といったところです。とはいえ、技術士に限らず、合格率はあまり意識しても意味がないことが多い(受験者の年齢や試験制度などに左右される)ので、参考程度にしてください。
専門科目を考慮した合格率
専門科目が人によって違うのが、合格率を考える上でまた厄介。
令和元年でいえば、応用理学部門は29.5%とかなり低いですが、経営工学部門は76.6%です。そして、次いで高いのが、私の受験した情報工学部門の68.8%!
参考書には「この傾向から、専門科目の勉強で合否が決まる可能性が高い」と書かれているものもありましたが、私の見解はやや異なります。
科目免除の影響
経営工学部門は、中小企業診断士で免除できます。
情報工学部門は、高度情報処理技術者試験と情報処理安全確保支援士で免除できます。
つまり、専門科目を免除できる科目は、合格率も高い傾向があります。
その専門科目は、参考書が充実しているか?
参考書の充実度も、学習のしやすさに大きく影響します。
受験者の半数を占める建設部門などは、参考書が充実していますが、私の受験した情報工学部門は、2020年の受験時点では1冊のみでした(しかも、誤字が多いため評価が悪いです)。
とはいえ、建設部門の合格率(令和元年度47.6%)と比べると、情報工学部門(令和元年度68.8%)の方が明らかに高い傾向もあるので、必ずしも参考書の充実度の影響は大きくないかと思います。
類似の試験で勉強できるか?
私の受験した情報工学部門であれば、情報処理技術者試験の学習を、そのまま利用できることが多いです。試験対策に、応用情報技術者のテキストを使って勉強する人もいるくらいです(合格優先なら、この方法はおすすめしません)。
一方、類似する試験が無く、テキストも充実していないとなると、環境は最悪です。この場合、過去問をダウンロードし、問題と解答を突き合わせながら、自分で解法を考えたり、正解の根拠を調査する手間が出ます。これでは勉強時間が大幅に長くなります。
類似の試験などで、どの程度学習ができているかも加味し、難易度(合格率)を考慮した方がいいでしょう。
技術士第一次試験の難易度(実際に受験した感想)
ここからは、実際に受験した上で感じた「技術士第一次試験の難易度」についてまとめます。
基礎科目の難易度
結論を言えば「高校の基礎~大学レベルが出題されるが、高校の基礎レベルだけ解ければOK」です。
基礎科目についてザックリ概要を解説すると、科学を中心とした以下の5つの分野から出題され、各分野6問中3問を選択して解答します。
- 1群:設計・計画に関するもの
- 2群:情報・論理に関するもの
- 3群:解析に関するもの
- 4群:材料・科学・バイオに関するもの
- 5群:環境・エネルギー・技術に関するもの
率直に言えば「全ての群の内容は高校の基礎~大学レベル」といったところです。
このうち、1群、2群は情報処理関連の勉強をした経験がある人には有利な科目。2群の多くは基本情報技術者の午前問題レベルで学習できますし、1群も1~2問が基本情報技術者試験レベルからの出題が期待できます(損益計算と信頼性に関する問題)。
3群は「高校の基礎~大学レベルの数学と物理」、4群は「高校の基礎~大学レベルの化学と生物」と考えるといいでしょう。
5群については、政府の方針や法律、技術史などが問われます。普段からある程度ニュースを見ていれば、2問程度は初見から正解できる可能性が高いですが、過去問演習で点を稼ぐのはやや難しです。
重要なところは「6問中3問を選択すればいいので、簡単な問題だけ解ければOK」というところ。
とくに3~4群は高校で勉強した内容を活かせる問題だけ選択し、後は捨てるよう割り切れば、理系科目が苦手な人でも6割以上を確保することは難しくありません。
ですので、問題の取捨選択を行うことで「高校の基礎レベルだけ解ければOK」な難易度にすることが可能です。
あくまで、難易度で言えば「高校の基礎レベル」ではありますが、「2群の情報処理関連は未経験なので苦手意識が強い」という人もいるかと思います。
そういった方は、解き方を覚える問題(真理値表、計算問題など)は、3群の数学より計算が易しいのでおすすめです。
適正科目
正直、難易度を判断しにくいです…。
社会人としての常識があり、会社でコンプライアンスの研修を受けていたりすると、だいたい初見でも合格できるという印象です。
しかし、過去問演習を重ねても成果が出にくいので、勉強の効率で見れば難易度高めです。
最初から合格点は取れて当たり前と信じて、技術士法第四条や製造物責任法などのよく出る過去問だけ暗記するといいでしょう(そうすれば、かなり短時間で仕上がります)。
専門科目(情報工学部門)の難易度
専門科目の情報工学部門は、応用情報技術者試験の午前問題並みの難易度という印象でした。
応用情報技術者試験の午前問題ほどに、解説付きの過去問が充実していないところが難易度を押し上げる要因になりますが、それ以上に「苦手・わからない問題は、10問まで捨てられる」という受験者側のメリットがあるため、総合的に見れば「応用情報技術者試験の午前問題より楽に合格できる」と思います。
ただし、過去問演習が適正や基礎科目よりも点数に結び付きやすい科目ではあるので、ある程度の試験勉強(とくに過去問演習)を行ってから試験に挑むことをおすすめします。
技術士第一次試験の想定される勉強時間
基礎・適正科目の勉強時間
ネット上の情報では、「基礎・適正でそれぞれ15時間」「基礎は15時間、適正は5時間」のように紹介されていることが多いです。
これらのサイトの紹介内容と、事前知識の程度を考慮すると、
- 普段勉強していない人
基礎科目:20~30時間
適正科目:5~10時間 - 勉強している人(または理系科目が得意な人)
基礎科目:10時間程度
適正科目:5時間程度
と考えるといいでしょう(理系が得意なら、勉強なしでも合格できる可能性あり)。
私が令和2年度の試験を受験した際は、基礎・適性の合計で15時間27分かかりました(暗記カードの作成時間を含む)。
私は理系は苦手でしたが、2群が専門分野だったのがアドバンテージになりました。
また、同じく令和2年に受験して合格した知り合いには、12時間で合格した人もいました。情報処理技術者試験や中小企業診断士にも合格している方だったので、やはり普段から勉強している人であれば、短時間での合格も可能という印象です。
専門科目(情報工学部門)の勉強時間
学習時間の目安は、やはりサイトによって紹介に差がありますが、30時間程度を目安とするサイトが多かった印象です。
令和2年度に私が受験した際は、18時間25分となりました(内7時間は暗記カード作成と実力診断)。情報処理技術者試験の過去の経験や、並行して学習していたプロジェクトマネージャ試験やネットワークスペシャリスト試験の影響もあったので、かなり有利だったと思います。
応用情報技術者試験の午前試験や、高度区分の午前Iを突破できる人であれば、勉強時間ゼロでも合格ライン前後は狙える手ごたえです(もちろん、安全と自己研鑽のため、ある程度の過去問演習をおすすめします)。
技術士第一次試験の具体的な勉強方法は?
具体的な勉強方法については、個別の記事にまとめました。
専門科目については、私の受験した情報工学部門のみの解説になりますが、参考にしていただければ幸いです。