素人がChatGPTをシナリオ作成に使う事について考察してみた
率直に言うと、ChatGPTを使った脚本の評判は良いとは言い難いです。
例えば、ブラック・ミラーの脚本家がChatGPTに「ブラック・ミラーの脚本を書いて」と頼んだ際の評価は「ブラック・ミラーのこれまでのエピソードをごちゃ混ぜにしたものに過ぎない」との結果に終わり、同様に水戸黄門について書かせた際は、「話は成り立つが、水戸黄門のお約束を守れていない」という結果でした。
少なくとも、ChatGPTが書いた小説・脚本がAIイラストの様に氾濫していないことからも、2023年8月時点では、ChatGPTの書くシナリオは、素人の実力以下と言えると思います。
しかし、用途を絞れば、きっとChatGPTをシナリオに有効活用できる可能性はあるはずです。直接的な描写はできなくても、ChatGPTの強みを活かせば、何らかの効率化ツールとしてシナリオ制作に活用できる可能性は十分にあります。
そこで、実験的にシナリオの作成に4カ月ほどChatGPTを活用してみましたので、その経験からChatGPTの活用方法について考察してみます。
実際にChatGPTにシナリオを書かせたら向いていなかった事
具体的な執筆をさせるには未熟
例えば「逃亡した銀行強盗と警察官が、お互いを銀行強盗と警察官と気づかず、偶然居合わせてしまう脚本を書いてみてください」と指示してみたら、こんな感じになりました(一部を抜粋しています)。
指示通り、銀行強盗Aは警察官Dを警察官と気づいていない様子ですが、なら警察官が制服を着ているのは不自然です。
しかも、銃を向けられた警察官Dが「落ち着け。銀行強盗だろう?あとで逮捕するから、今は警察官としての仕事をやらせてくれ」と言ってるのがもはや意味不明。それを聞いて銃を下ろすのもわけがわかりません。
毎回ここまで酷いとは言いませんが、具体的な文章を記述させるとなると、何度も出力させた中からまともな部分を抜粋せざるを得ず、結局は人間の手によるつぎはぎが必要です。
GPT-4だとやや優秀
GPT-4に先ほどと同じ「逃亡した銀行強盗と警察官が、お互いを銀行強盗と警察官と気づかず、偶然居合わせてしまう脚本を書いてみてください」という指示を与えてみたところ、以下のようになりました(画像だと長くて表示しにくいので、テキストで引用します)。
一軒の小さなダイナー。昼下がりの穏やかな時間が流れている。
警察官 (ジョン): (カウンターでコーヒーをすすりながら) “いつもの、ダブルベーコンチーズバーガーを頼むよ。"
ウェイトレス: “了解、ジョン。すぐに出来上がるわ。"ドアが開き、見知らぬ男(マイク)が入ってくる。彼の見た目は普通だが、目には疲れと緊張が見て取れる。
マイク: (バーカウンターに座る) “黒いコーヒーと、何でもいいからサンドイッチを一つ。"
ウェイトレス: “分かりました、すぐに持ってきますね。"マイクとジョンの間には他に客がいない。二人は無言で時間を過ごし、やがて会話が始まる。
ジョン: (優しく笑いながら) “そっちからこっちへの旅行者か?"
マイク: “ああ、そうだ。ビジネスでね。"
ジョン: “なるほど、忙しそうだな。"マイクは強盗のニュースが流れるテレビに目を向ける。ジョンもそれに気付き、ニュースを見つめる。
テレビ: “昨日、銀行強盗が逃亡中という報告があります。警察は容疑者を追っています。"
テレビ画面には監視カメラの映像と、逃亡者と思しき人物のスケッチが映し出される。
ジョン: “これが仕事の一部だ。危険な世界だよな。"
マイク: (うっすらと笑いながら) “確かにそうだな。毎日が戦いだよ。"二人は再び静まり返り、コーヒーを飲む。各々が自分の世界に思いを馳せている。ジョンは強盗を、マイクは逃走を思い描く。
そしてその瞬間、二人の目が交わる。一瞬の緊張が走る。互いの本当の姿を知らないまま、それぞれが自分の役割に縛られた世界に戻る。
だいぶまともになりました!
無駄な会話も少な目で、テレビの映像と会話から、ちょっとハラハラする感じになりつつも、お互いが勘違いしたまま終わる展開になっています(まあ、逃亡者のスケッチが出た時に正体がバレないとか、強盗が普通に飲食店で飯食ってる点は不自然ですが)。
ただ、長文になるほどGPT-4も不自然さや矛盾点が全体に広がってくるのも事実です。やはり全文をChatGPTに執筆させるというのは現実的ではないかと思います。少なくとも、素人レベルでも人の手を大幅に加えた方が、仕上がりが良くなるかと思います。
条件複数与えると、そのままが返ってくる
ChatGPTが勝手な脚本を書かないように、条件を複数与えると、ほぼそのまま返ってくることが多いです。
例えば、「以下の条件を元に物語を膨らませてプロットを書かいてください」と指示してみます。
- 警察官の佐津間は、私服姿で飲食中
- 逃亡中の強盗の後藤が、何らかの事情で警察官がいる飲食店に入ってくる
- 後藤は、逃亡中のため警戒している
- 佐津間と後藤は、お互いに声をかわす場面があるが、お互いの正体を知らない
- 佐津間と後藤はトラブルに巻き込まれる
- 後藤はトラブルに巻き込まれたくないが、逃げたら不自然なため、佐津間を助ける
- 後藤は佐津間を助け、トラブルを解決するが、正体を知られないために去る
- 佐津間は後藤を探そうと決心する
結果は、以下のようになりました(長いので、テキストでまとめます)
プロット: 「密室の駆け引き」
- 警察官の佐津間は、私服姿で飲食店でくつろいでいる。彼は疲れた表情を浮かべながら食事を楽しんでいる。
- 逃亡中の強盗犯、後藤は必死に警察から逃れるために、偶然にも警察官がいる飲食店に入る。
- 後藤は帽子とサングラスで顔を隠し、周囲を警戒しながら店内を見回す。彼は佐津間に気づき、彼が警察官であることに不安を覚える。
- 佐津間も後藤の様子に気づき、彼の行動を注視する。二人はお互いに声をかわすが、互いの正体を知ることはない。
- その時、店内にトラブルが発生する。武装した男たちが店内に侵入し、人々を人質にとる。
- 佐津間は即座に対応しようとするが、後藤が彼に近づき、静かに囁く。
後藤 (囁く) 助けてくれ。逃げたいんだ。
- 佐津間は迷わずに後藤の言葉に応え、彼を助けるために行動する。彼らは声をかわしながら、トラブルを解決するために協力する。
- 後藤は巧妙な戦術を使い、佐津間と共に武装した男たちと対峙する。二人は連携し、見事にトラブルを収束させる。
- トラブルが終息した後、後藤は佐津間に感謝の意を示す。しかし、彼は逃亡中であるため、正体を明かすことはできない。
- 後藤は去る前に佐津間に囁く。
後藤 (囁く) ありがとう。でも、私のことは忘れてくれ。警察から逃げ続けなければならないんだ。
- 後藤は店を後にし、佐津間は彼を追うことができない。
- 佐津間は後藤を探すことを決意し、彼の正体と背後にある事情を解明しようとする。
ツッコミどころが多いので、とくにツッコミたい部分を赤文字にしましたが、最大の問題はそこではありません。
個人的に複数条件を与えた際に問題となるのが「私が与えた条件を単になぞっているだけ」という点です。今回だと、トラブルの内容が「武装した男達が店内に侵入し……」という部分で、独自性が出ていますが、ほぼ話が膨らんでいません。確かに、プロットという指示は出しましたが、私が与えた内容ほぼそのまんまです。
要するに、「面白そうなアイデアがあるけど、具体的なエピソードが無いんだよなあ……」という、物語を書こうとして躓きやすいポイントで、ChatGPTがあまり役に立たないのです。
無難なアイデアなら出せる
ちなみに、「後藤は巧妙な戦術を使い、佐津間と共に武装した男たちと対峙する。二人は連携し、見事にトラブルを収束させる」の部分を、ChatGPTに複数回質問し、より具体的なエピソードに書き直させたところ、以下のようになりました。
佐津間は、敵の目を引くために椅子を蹴飛ばし、騒ぎを起こす。
それによって強盗団の注意を引き付け、後藤に行動の時間を稼がせる。
後藤は店内を駆け回り、壁や家具を利用しながら敵を避ける。彼は俊敏な身のこなしで強盗団との距離を保ち、同時に人質の位置を把握する。
佐津間と後藤は人質を救出するために、店内の構造を利用する。
後藤は店の奥にある裏通路を発見し、佐津間に合図する。二人は人質を裏通路に案内し、安全な場所へと避難させる。
同時に、佐津間は店内の電気を利用して敵の視界を遮断する。彼は明かりを消し、強盗団に混乱を与える。
このように、質問を繰り返すことで、ある程度具体的な描写をさせる事は可能です。しかし、アイデアとして面白みがあるかと言えば正直微妙です。
強いて言えば「ここは見せ場じゃないから、無難な内容でアイデアをくれればいいや」というレベルであれば、ChatGPTを活用することもできますが、自分が書こうとしているシナリオが明確であるほど、それと矛盾しない描写をChatGPTにさせる事が困難になります。
1つの条件でもつまらなくなる事もある
例えば、「教師を主人公にした脚本」を書かせると、だいたいつまらなくなります。
以降もアイデアは続きますが、普通過ぎて面白くありません。
「学習障害を抱えた生徒」や「予算削減」など教師ならではの困難が現れますが、トラブルに関連性が乏しく話としてまとまりがありません。この後も「図書館の再活性化」が3幕で登場し、それらの関連性や主人公のキャラクター性が明確にならないまま、第4幕で唐突に教育の品質向上により表彰されてハッピーエンドという酷さです。
これ以外にもアイデアを20本以上出してもらいましたが、「教師」のキーワードがあると、「学校の先生がやる活動」に内容が引っ張られすぎてしまうため、面白くなりませんでした。
また「主人公は教師で、ファンタジー要素を入れて」などというと、主人公が教師である必要性が不明な作品が出力されますし、「教師としての活動に絡めて、意外性のあるアイデア」と指示すると校外学習などのちょっと特別な授業になるだけです。
結論としては「現状のChatGPTでは「教師」を主人公にしたシナリオを書くよう指示すると、つまらないものができる」といった印象です。
この例の様に、特定の条件でシナリオのアイデアを出させるのは、ChatGPTには向いていない事がありました。しかし、現実には「○○賞は××の要素を入れると受賞できる傾向がある」「今回は○○の要素を入れたシナリオを依頼された」といったことがシナリオを書く際にはあり、こういった需要を現在のChatGPTは満たすことができません。
GPT-4だと、やや改善される
有料ですが、GPT-4で試したところ、以下のようになりました。
GPT-3.5と比べると、話の流れにまとまりがでており、アクト1~4にかけて、それぞれのエピソードが次のエピソードに影響を与えています。
そういった意味ではGPT-4の方が幅広いシナリオに対して効果的な回答を得る事ができると言えるかと思います。
ただし、細かな点について質問をしていくと、「明確な矛盾は無いけど、物語としては面白みにかける」という感じではありました。
アイデアを具体化しようとすると、不自然になりがち
「映画化したら最高に面白そうな設定」は素人でも思いつきます。困難なのは、その設定で具体的な作品を書くための細かなアイデアが出せるかです。
そして、その具体化のためにアイデアを深掘りするのが、ChatGPTはあまり上手くありません。
例えば、先にあげた教師(ジョン)が主人公の話について、ChatGPTと掘り下げてみると以下のようになります(長いので要約します)。
- Q1:アクト1でジョンが大都市の名門私立学校からスカウトされた理由は?
- A1:ジョンは故郷の学校で、生徒のパフォーマンスを劇的に向上させた。そのジョンの教育哲学が、大都市の名門私立学校の目に留まった。
- Q2:ジョンの教育哲学とはなんですか?
- A2:「全ての生徒が成功する可能性を持っている」という信念。
- Q3:ジョンの教育哲学が名門私立学校で通用しなかった理由は?
- A3:私立学校では、学業成績や大学進学率などの客観的な指標が強く重視される傾向があり、ジョンの教育哲学とは必ずしも合致していないから。
まず、A1の時点で、「何でそんな優秀な能力を持ってるんだ?」「そんな優秀な能力を持っているのに故郷で教えている理由は?」「あえて故郷を選んでる優秀な人が、名門私立学校に行った理由は?」と、既に若干の不自然さが出ています。
更に、ジョンの教育哲学を深掘りすると、「全ての生徒が成功する可能性を持っている」という漠然とした信念が登場します。この信念だけで生徒のパフォーマンスを劇的に向上させられるとは考えにくいですし、それを納得させるとなると、それなりのインパクトがある場面を用意する必要があります(現状では、ただの設定なので)。
更にA3では、「学業成績や大学進学率などの客観的な指標が強く重視される傾向があり、ジョンの教育哲学とは必ずしも合致していないから」というのがまた不自然です。元のプロットでは、この「必ずしも合致しない」というこのが原因で、主人公は挫折した上、生徒たちからも馬鹿にされています。ここも、それなりに説得力を持たせるエピソードを、結局用意しないといけません。
GPT-4を使うと、これらのエピソードについて、具体的なシチュエーションが返ってくる可能性が高いのですが、GPT-3.5では、あまりその内容も期待できません(不自然だったり、矛盾があったりする)。
また、GPT-4を使った場合も、深掘りを繰り返していくと、場面が無制限に増えていってしまい「不自然さを消すために、新しい不自然な状況を生む」というループに嵌りやすいです。そもそも「同じ設定で、新しい場面を考えてみた」といった形でChatGPTから提案される事が多いため、何度もアイデアを出させると、前後で矛盾が発生してきます(そもそも、新しく提案された場面が、時系列的にいつの場面かも不明)。
結局のところ「物語のプロットと、同じ(似た)設定の場面は考えられる」けど「具体的なエピソードを繋げて一つの作品を執筆する」事については、物語が長くなるほど人の手による作業が多くなってしまうという印象です。
正確な情報を入手するのには向いていない
これは少し使えばわかる話ですが、本物っぽい嘘の情報(ハルシネーション)をChatGPTは生成することがあります。
とくに「それなりに有名な固有名詞」を混ぜた内容について質問すると、謎の回答が返ってくる可能性が高いです。
例えば「王、長嶋をぶっ壊す!」(侍ジャイアンツのウルフ・チーフのセリフをちょっと変えてみたもの)を入力してみたら、以下のようになりました。
長嶋さん、中日ドラゴンズのエースだったのか……(いや、違うけど)。
一つの画面で色々と質問できるのは便利ではありますが、とくに固有名詞を含めた情報には嘘が多いため、最終的には情報の真偽の再チェックが必要です。
「脚本形式」での執筆には向いていない(小説の方がマシ)
一応、脚本形式に近い形でもChatGPTは執筆を行ってくれますが、脚本形式での執筆はあまり向いていません。
例えば、ChatGPTに映像作品向けの脚本を依頼しても、映像表現にならないもの(内心の描写や、設定描写など)を平然とト書きで書いてきます。もちろん、ナレーションなどで語らせる事は可能ですが、「ここはナレーションの方が効果的」などといった判断は見受けられず、そのまま利用するとかなり説明臭い脚本になります。
同様に、ラジオドラマ用の脚本も、音声だけでは表現しにくい内容を盛り込まれる事があります。それらを回避するように条件付けして依頼しても、同じミスを繰り返してきますので、現状のChatGPTでは、脚本形式はあまり向いていません。
日本のドラマ・日本の映画作品らしい作品は向いていない
とくに条件を付けず「物語のアイデアを5つください」と頼んでみたところ、以下のようになりました。
どれもハリウッド映画に出てきそうな感じです。日本のドラマによくある様なホームドラマ的なものや、人間ドラマ的な方向性ではありません。
更に「日本のドラマらしい物語のアイデアを5つください」と指定しても「時空探偵」とか「忍者の遺産」など、「確かに日本のドラマにあるかもだけど、それ違う」って感じのアイデアが出てきます。
そこで、更に具体的に「日本のテレビドラマの賞に応募しようと思っています。賞をとれそうな物語のアイデアを5つください」と入力した結果、以下のようになりました。
3番だけ、未だにSFな雰囲気ですが、残りが日本のドラマっぽくなりました。
が、どれも具体性に欠け、いったい何が面白いのか不明です。4番とか、四季が影響する以外はただの「ラブストーリー」というジャンルにしかなっていません。
ChatGPTは、日本語の資料よりも海外の資料での学習が多いため、このような傾向があるのかもしれません。少なくとも日本のドラマや映画の賞を狙う場合は、あまりアイデア出しに向いていないかもしれません(私は、SFとかファンタジー好きなので問題ないですが…)。
シナリオを面白くするための修正作業には向いていない
ChatGPTは、ある程度の物語の構造は判断できますが、その精度は現時点ではあまり優れていません。
例えば、私が以前書いた脚本で「故人が好きだったので、棺に納められている故人はパンツを被っており、式場もパンツが飾られている」というシーンについて、修正作業を行わせたところ、「故人の扱いが不適切なので、パンツを全て削除するように」と指示されました(それ取ったら、ただの葬式じゃん……)。
人間が読めば、その異様さが物語として重要な要素なのが分かるのですが、ChatGPTにはそれが理解できないため「この作品における重要な要素」を平然と削除してきます。とくに、倫理的に問題がある内容は修正対象となるため、倫理観を問う要素がある脚本ほど、ChatGPTに修正させるとつまらない内容になっていきます。
アイデアを収束させるのには向いてない(むしろ有害)
後述しますが、ChatGPTをシナリオ作成に活かす場合、最も強い能力はアイデアの生成速度だと思います。
それぞれのアイデアはイマイチな物が多いのですが、頼めば次々とアイデアを量産してくれるため、それらを見ながら自分の中で更に加工を加えることで、高速で良質なアイデアを生み出すことが可能になります。
ただし、最終的な決断をするのは自分です。
そのため「もっと良いアイデアが生まれるはずだ……」と思って、ChatGPTとの相談を繰り返していくと、いつまでたってもアイデアを練る作業が終わりません。
ですので、どこかでChatGPTのアイデアを具体的な物語に変換する決断をしないと、逆に「イマイチなアイデアの山を精査するのに時間がかかり、非効率になる」という結果もありえます。
シナリオ作成にChatGPTが活かせた事
アイデアのブレストには使える
先にも掲載しましたが、とくに条件を付けず「物語のアイデアを5つください」と頼んでみたら、以下の様なアイデアがスラスラでてきます。
それぞれのアイデアは具体性に乏しく、どこかで見た映画みたいな感じではありますが、僅か15秒ほどで5つのアイデアが出てきました。
更に、もう一度、もう一度……と繰り返していくと、似たアイデアも量産されてしまうものの、人間一人で考えるよりは遥かに高速でアイデアが出てきます。
そして、それらのアイデアを見ながら「そういえば、前に思いついたあのアイデアと組み合わせれば、これは面白そうだ……」と閃けばしめたものです。
とくに、ゼロからアイデアを考えていく場合は、時間を区切ってブレストで使ってみてもいいでしょう(現状の私は、ゼロからスタートするときは30~60分ほどブレストしてます)。
ただし、繰り返しになりますが、アイデアの9割以上は「面白そうだけど、まあ、そういう映画って、既にたくさんあるよね」みたいなレベルです。少なくとも私は「そのまま映画のシナリオとして書き始めたくなるようなアイデア」を提案された経験はありません。
検索キーワードを考えるのには使える
先述した通り、情報検索にではもっともらしい嘘(ハルシネーション)の提供が行われる事もあるChatGPTですが、ならば最初からネットで検索する前提の内容を訊ねるのは、効率化としてありです。
例えば「行政組織が登場するシナリオを描きたいけど、○○の様な仕事をしている市役所の部署がわからない」と思った時「○○の様な仕事をしている市役所の部署はどこですか?」と訊ねる事ができます。
この場合、比較的正確な情報が提供される確率も高く、また返ってきた部署名から、結局ネットで詳細を調べる事になるので、もしも嘘があればこの段階で確認できます。
ただし、最初から検索エンジンを利用しても欲しい情報が見つかる可能性もあるため、必ずしも効率的とは言えません。この辺りの線引きは、すぐに判断できるように慣れないと、結局非効率な感じもあります。
BingのAIチャットの方が情報検索には有利
Bingで提供されているAIチャット機能を使った場合、ネット情報の検索を行ってくれる上に、提供された文章をクリックすれば、AIが参照したページが表示されます。
更に、無料では利用できないGPT-4をベースにしている上に、無料で使えるという点も、BingのAIチャットのメリットです。
ただし、BingのAIチャットは、あくまでAI検索エンジンです。つまり、脚本のアイデア出しや執筆にはほぼ利用できません(脚本を書いてくださいと依頼しても、既存の脚本に関する情報を調べて回答するだけです)。
一般的なシナリオに対する助言は貰える
全くのド素人が、簡単なシナリオの執筆手法を教えてもらうのには向いています。
例えば、脚本の書き方を教えてもらうと、以下の様に回答が返ってきます。
この後も、フィードバックを貰う所までアドバイスは続きます。
更に「アイデアの開発について、詳しく手順書にまとめてください」と指示したところ、10段階に細分化して具体的な内容を書き出してくれました。
このように、全くの素人がシナリオを書く際に流れを手順書化してもらい、それによって作業を効率化するのであれば、ChatGPTは活用できます。
ただし、大まかな執筆方法は慣れれば素人でも身に付きます。アドバイスの内容も、特別優れているわけではなく、飛ばしても問題ないポイントもあるため、毎回ChatGPTのマニュアル通りに進めるのは、非効率になる可能性もあります。
アイデアの採点はできる(ただし、信憑性は微妙)
例えば、ブレストなどでアイデアを大量に出した後に、複数の候補からアイデアを選ぶときに、ChatGPTにアイデアの順位付けとその理由を回答させることができます。
自分の中で、明確な順位付けが難しい時に、自分以外の意見としていつでもどこでも利用できる点は、誰もフィードバックをくれる人がいない環境では僅かながら役に立ちます。
ただし、アイデアの採点は、全く同じ内容を入力しても何度も繰り返すうちに採点内容が変化する事もあります。そのため、活用する場合は、何度も入力を繰り返したうえで、採点の傾向を確認した方が良いでしょう。
また、ChatGPTの判断内容が根本的に不適切な事もあります(解釈が間違っている等)。順位の理由について納得がいかなえれば、ChatGPTの意見は無視した方が無難です。
誤字脱字チェックは使えなくもない
ChatGPTを使って、いくつか誤りを含めた文章の修正をさせてみました。
結果は、上記の通り。
あえて、分かりにくい文脈で「情報」を「乗法」としてみたところ、意味不明な勘違いをしています。また、「佐藤」を「砂糖」にしたところ、砂糖のままスルーされました。
ただ、「野党こと」を「頼むこと」に修正で来た点は評価できます。この部分はWordの校正機能では検知できなかった為、少なくとも今回入力した文章では「Wordの校正機能より、ChatGPTを使った方がエラー検知できている」とはいえます(結局、人の目でのチェックも必要ですが)。
ちなみに、上記文章をGPT-4に修正させたら、以下のようになりました。
GPT-3.5よりは正確な修正になっていますが、根本的に文章が変わってしまっている点がちょっと心配です。
ちなみに、「砂糖」が「田中」になってしまっている点については、文章の途中に「佐藤」を登場させることで、「佐藤」に修正させることが可能でした(この点、GPT-3.5だと、結局「砂糖」のままでした)。
私のやっているChatGPTの使い方
今までまとめたChatGPTを使ってみた経験から、私は以下の様にChatGPTを活用しています。
この活用方法であれば、特別なシナリオ作成術などを学んだ経験が無く、またプログラミングができない人でも、ChatGPTをシナリオ制作に活かすことができます。
今後、活用方法については更にブラッシュアップさせていきたいと思います。
ネタを考える段階(0~30%くらいChatGPTに頼る)
一番ChatGPTを活用するのは、ネタを考える段階です。
具体的には、以下の様な流れで活用していきます。
- まずは、アイデアを大量にださせてブレスト
- 良いアイデアが出始めたら、少しだけ具体的なシーンの描写をさせる(あくまで、イメージを膨らませるために活用)
- アイデアを具体化するため、必要な知識の検索に使う(稀)
- これなら書けそうというアイデアいくつか選び、順位付けさせる(参考程度)
- キャラや地名のネーミングの参考に使う
アイデアゼロから始める場合は、上記のような流れでChatGPTを使いながら、大まかな物語の内容を考えていきます。
ただし、最初からある程度のアイデアを持っている場合は、3番以降を適宜利用する感じです。
最終的に「このアイデアなら、書いてみたい!」と思えるレベルのネタを一つに絞り、矛盾点やシナリオ上明らかに不足しているシーンが無くなったら、具体的なプロットをまとめる段階に進みます。
プロットを書く段階(ほぼ100%自力)
正直に言うと、プロットを書く段階に入ったら、もうほとんどChatGPTは使いません。
例えば、描きたいシーンのアイデアが複数ある場合、それらをどの順番で描けば魅力的に見えるかについては、ChatGPTはあまり判断力が高くありません。そもそも複数の指示を与えるほど、入力した指示がそのまま出てきてしまうため、アイデアをまとめるという作業が根本的にできません。
強いて言えば、細かなシーンについて不自然さがあるとき、その合理的解釈をするための作品の設定について相談する事はありますが、その回答も納得がいかないものが多いです。結局、物語の進行の中で無理なく伝わるように、合理的な設定や場面転換を自分で考えた方が早かったりします。
執筆をする段階(ほぼ100%自力)
何度も述べていますが、執筆段階に入るともうほとんど使えません。
複数の条件を与えて物語を執筆をさせようとすると、ChatGPTは与えた設定をほとんどそのまま書くだけになってしまうので、「ネタを考える→具体的なプロットにまとめる→執筆する」という流れでは、ChatGPTの能力を発揮させることは困難です。
ただし、無難な文章を素早く書かせることにおいては、ChatGPTは人間以上の速度を発揮してくれます。そこで「どうでもいい内容だけど、シナリオ上必要となるちょっとした会話」であれば、使えない事もありません。
とはいえ、そういった「どうでもいい会話」は長引いてもつまらないので、活用場面は限られます。強いて言えば、自分の専門外の知識が必要になる会話だと、若干利用できるかなといった感じです(部活動で、先輩が後輩を指導するシーンとか。知識に誤りが無いか再調査は必要ですが)。
修正を行う段階(ほぼ100%自力)
修正作業でも、ChatGPTの出番はほぼありません。
念のため、毎回作品の良い点・悪い点を評価させていますが、「予想通り」か「解釈を誤っている」の2つの反応以外はほとんど返ってきません。
酷い時は「凄惨な虐めを描いたシナリオ」を評価させると「虐めが不適切なので、虐めのシーンを無くしましょう」という本末転倒な回答まで出てきます。
誤字脱字チェックについては、前述したとおり、やや効果がありますが絶対ではありませんので、自分の眼によるチェックが必須です。また、入力できる文字数の制限と、チェックの制度の関係上、できればGPT-4を活用した方が無難です。
【2023年10月追記】GPT3.5がイマイチになった気がする
私のChatGPTの利用方法を解説しましたが、8月頃からChatGPTの回答がイマイチになってきた気がします。
データをとっているわけではありませんし、細かなアップデート情報までは私は把握していませんが、アイデアを考えるにしても、部分的な描写を任せるにしても、回答内容がイマイチで、正直「ChatGPTを利用しない方が良いのでは?」と思えるレベルです。
一応、GPT4.0を利用すれば、十分に役立つレベル(むしろ、以前よりもレベルが高い)のですが、月額20ドル(現在のレートで3,000円弱)かかりますので、ツールとして使うには悪くないけど、基礎の修行を積んでいる身としては、お金を払ってAIの活用方法を学ぶ事よりも、無料で自分自身の技術を磨く方がマシかなという感じではあります。
ChatGPTをシナリオに活用するのが向いている人
最後に、私の経験から「ChatGPTをシナリオに活用するのが向いている人」を考えると、以下のようになります。
- ブレストとして利用したい人:既に描きたい方向が決まっていても、追加で活用できるアイデアが生まれる可能性はある。ただし、使えないアイデアの方が圧倒的に多い事は覚悟する。
- とくに書きたいアイデアが無い人:ゼロからアイデアを出させると、たまに奇抜な物が出てくる。また、最初からChatGPTの出したアイデアで、ChatGPTに脚本を書かせて、最後に人間が修正するのも短いシナリオならできなくはない。
- 短い作品を書ければいい人:具体的な執筆をChatGPTに任せる場合は、短いシーンでないと矛盾が大きくなりがち。また、長編ほど作品全体のバランスも崩れやすいため、短編の方がChatGPTには向いている。
- 無難な文章例を参考に使いたい人:「とくに書きたいシーンではないが、作品上必要になるちょっとした場面」を無難に書かせるのには向いている。人間より遥かに早い。ただし、条件が増えるほど不自然になる。
現段階では、シナリオにChatGPTを活用する必要性はあまり高くはありません。
とくに、シナリオ作成に慣れていて、具体的に描きたいアイデアがある人ほど、ChatGPTを使う必要性は薄いと言えます。
一方で、次々短い作品を量産したい人(短い動画用の脚本とか)であれば、ChatGPTと連携した脚本作成は向いていると思います。その場合は私が使っている様な方法ではなく、いっそChatGPTにシナリオを書かせて、細部の矛盾点や不自然な点を人間が修正する流れでもいいでしょう。